わたしは傘が嫌いです。だからといって全くささない訳ではないのですが、天気予報でどれほど雨が降ると言われても外出時に降っていなければ持っていきません。ただ荷物になるのが嫌なだけの面倒くさがり屋であります。傘を持つだけの手間を省こうとするズボラなわたしは、やはりよく雨にうたれました。
その日もわたしは雨にうたれて帰路についておりました。わたしの働く会社は駅から徒歩30分で、そこまでに建物はほとんどなく住宅街がずっと続いている中を通ってゆきます。夏は日陰のない地獄のような通勤道なのですが、当然傘を持たない雨の日もなかなかの辛い道となります。(持っていけばいい話と言われればそれまでですが。)朝出るときは降っていなかった雨が夕方に降り出すというのはよくある話で、わたしはしょんぼりと自業自得ながら傘をささずに雨の中を歩いてました。ちょうど黒いカーディガンを羽織っていたので、それを頭の上でクロスさせた腕に引っ掛けて傘代わりにしてました。周りの通行人にも、あいつなんでこんな日に傘持ってないんだ、みたいな目で見られましたが、もう会うことのない人間だと割り切りました。駅はショッピングモールと繋がっており、そのショッピングモールまでもう目の前という所で惜しくも信号に引っ掛かりました。しとしとと雨が降る中、そういえばよく恋愛ドラマでは雨に打たれる少女が通りがかりの通行人に傘を貸してもらって恋が芽生えたりお友達になったりするよなぁ誰か話しかけてくれないかなぁ、と考え周りを見ますが当たり前に皆知らん顔です。そりゃそうだと期待していたわけではありませんが、諦めて長い信号を待っていると、近くにいた外国人2人組がチラチラとこちらを見て何かを話しています。当然その2人は傘を持っています。なんだもしかして、あまりにわたしが可哀想だから、傘一本あげるよわたし達は2人で一本に入るから、とか言ってくれるんじゃないかそうなのか!?と考えていると、「スイマセン」とついに声をかけられたのです。「っは、はい!?」キョドりながらも返事をすると、その外国人はニッコリしながら、「ソノクツカワイイデスネ」と言いました。…あれ!?何言ってるんだこの人、と一瞬思考が止まり、何度も頭の中で咀嚼するうちにそれがちゃんとした日本語であり、平仮名と漢字に変換すると「その靴可愛いですね」であるとわかった頃には、外国人さんはもう一度「ソノクツカワイイデスネ」と言いました。「あ、ありがとうございます。日本語上手ですね」とか言う程度には思考は回復したというか対応し始めたが、せめて傘忘れたんですかとか突っ込んでくれたらいいのにわたしがカーディガンを腕でクロスに支えて傘代わりにしていることに関して何も触れられないことに、一抹の寂しさを覚えました。
]]>